降りる人が優先
電車に乗る時、思うことがある。私はそれを見る度に、何だか無性にやるせなくなる。
「あぁ。なんてみっともないんだろう。」
私はひとつ溜め息をつく。
電車が風を巻き上げながら、ホームに入ってくる。
徐々に速度を落としていき、決められた場所に、狂いもなく正確に止まる。
空気の漏れ出るような音をあげながら、ドアが開く。
その瞬間、降車する人の群れが勢いよくホームへと押し寄せる。
乗車しようとする人は、ドアの両端でその群れの過ぎるのを待つのだけれど、
しかし、
まだ人が完全に降りきる前なのにもかかわらず、
我先にとばかりに、掻き分けるようにして車内へ乗り込んで行く人がいた。
その人は、空いている席へと一直線に向かって行き、まるで椅子取りゲームをしているかのように、誰にも盗られまいと勢いよく座るのだった。
「あぁ。なんてみっともないんだろう。」
私はひとつ溜め息をつく。
揺れる電車で立ち続けるのは、案外疲れる。
これが仕事帰りであるなら尚更だ。
日中立ちっぱなしであったり、
或は取引先を汗だくになりながら歩いて回ったことを想像すると、
お疲れ様の一言も言ってあげたくなる。
だから、そういった行動を取ってしまう気持ちも理解できるのだけれど、
それでもやっぱり恥ずかしさから、私には真似できない。
電車に乗る人よりも降りる人が優先というのは、当然のことだと思う。
先に人が降りなければ、降りたい人は乗車してきた人に阻まれて降りられない。
車内に乗車する人のための十分なスペースが確保できない。
それに、ぶつかってホームと電車の間に物を落とす可能性がある。
ケガをする危険性もある。
だから、我儘に乗車しようとする人を見るのは、凄く嫌だ。
本当はその人に、
「そういう事をしては駄目ですよ」
と注意できれば良いのだけれど、臆病にも躊躇ってしまう。
周囲の目を気にしてしまう。
喧嘩になるだろうことを想像してしまう。
私は卑怯者かもしれない。
いつか、注意できるような人になれるのだろうか。